仮説として

思春期特発性側弯症の原因はいまだに明確にはなっていませんが、研究されている様々な要因が、内因性のものであれ、外因性(環境因子)のものであれ、それらは生物学的にヒトの体内で「ある期間中、継続して」脊椎を捻じ曲げる力として作用していることは事実です。それを突き詰めていくと、遺伝子レベルでの異常が生じていると仮説することで、なぜ捻じ曲がりが長期間続くのか?  ということの理解に繋がります。

この図は原書房「ビジュアルで見る遺伝子・DNAのすべて」から引用しました。

ヒトは一個の受精卵から細胞分裂を繰り返して「私」が出来上がるわけですが、その細胞分裂のときに、DNAに物理的なキズや塩基により構成されている遺伝子自体のあるべき場所が入れ替わったり、ということがつねに生じています。

染色体は遺伝子が乗った乗り物のようなもので、親から子に伝わるときに、23対の染色体はとても複雑な組み合わせを持つことになり、単純な計算でも4の23乗=約70兆の組み合わせがありえます。この複雑な組み合わせの最中に、乗客である遺伝子が隣の染色体に乗り換えることが発生していることが判明しています。染色体は安定したものではなく、この変異を染色体の交叉とか、遺伝子の組み換えと呼んでいます。背難色体の交叉はごく普通に起こる現象で、通常の細胞分裂でもかなりの頻度で起こります。ヒトの細胞では、1回の細胞分裂に対して 40か所くらいの交叉が起こります。この変化が、ときには「病気」のような現象に繋がることもありますが、この変化自体がヒトが「進化」してきた大きな要因でもあります。

(以上、講談社BB子どもにきちんと答える遺伝子Q&A100より改変)

特発性側弯症の病態は実に様々なものであり、単純に、例えばA型、B型、C型というような区分をすることができません。発症年齢、男女の比率、性徴期(成長期)に進行しやすい、自然緩解するものもある、骨成熟完了後も進行するものもあり、また、親が側弯の場合でも、逆に親は側弯ではないのに発症したり、痩せているから発症しやすいという報告もあれば、太っていても発症するという報告もあるなど、あまりに関連因子が多すぎるために、どの切り口で研究を進めても、糸口がなかなかつかめずにいる、というのが実態だと思います。

ただ、そういう中でも、分子レベルの「遺伝子」の異常に焦点を絞ることで、少なくとも、次の事象は説明ができます。

脊柱をある程度柔らかな金属棒と想定したとき、この金属棒は「曲がった」としても、その反対方向に曲げ返すことで、金属棒は元の真っすぐな状態にもどり、その状態を保ってくれます。もし側弯症がこのような性質であるならば、側弯整体の施術や体操も効果を持つかもしれません。

しかし、側彎症はそのような単純な道を辿ってはくれません。力で抑えても、力を加えて、真っすぐにできたとしても、短時間のうちにまた曲がり始めます。元の曲がりに戻り、さらにはそれ以上に曲がっていきます。例えば肋骨隆起リブハンプも同様の経緯をたどります。

この「曲がる力」がどれほどのものであるか、ご存知でしょうか? 

そのひとつの例は、脊柱固定術で見ることができます。側弯症に対する脊柱固定術では、曲がった脊椎をできるだけ真っすぐにするように矯正して、その位置を保つために直径数mmのチタン製の長いロッドとスクリューで脊椎に固定します。直径数mmのチタン金属は、大人でも両手で曲げようとして、そうそう簡単に曲げることはできません。ドクターは特殊な医療器具を使用して、このチタンロツドを手術した脊柱に合うように曲げ調整して固定するのですが、手術後に、チタンロッドで固定して真っすぐにした脊柱が曲がることが多々見られます。これを矯正ロスと言います。例えば、手術直後にコブ角25度に矯正できたとしても、手術後数か月でコブ角が30度や35度に曲がってしまうことがあるのです。時には、この金属ロッドが、再び曲がろうとする脊柱の力に負けて、折れてしまうことすらあります。側弯症の脊柱が曲がろうとする力というのは、それほどまでに強烈なのです。


それほどに強い曲げ力ですが、もしかすると施術や体操で一時的に真っすぐになるかもしれません。

しかし、側弯症は、分子レベルでの病気....この場合は、遺伝子の変異を原因として脊柱の異常な成長あるいは、間違った成長方向の指示が遺伝子から出され続けている状態ですから、この一時的な戻りは、あくまでも一時的であって、すぐに元に戻ることになります。

稚拙な表現ですが、本来の遺伝子が脊椎に対して「左右均等で真っすぐに伸びろ」と指示を出すべきところが、その遺伝子からは、つねに「曲がれ」「曲がれ」という指示がで続けているのです。

間違った指示が「出続けている」がゆえに、装具療法では一日の装着時間が長ければ長いほど、その効果は維持される可能性が高くなるわけです。

しかし、仮に一日23時間の装着を2年、3年続けても、最終的にコブ角が45度~50度を超えてしまい、手術になることもあります。それほどに「曲がる力」は強く、そして「曲がれ」という指示が強力な「剛腕な遺伝子」も存在します。