目には見えないことが沢山ある、ということについて

2018年08月27日
私達は心の中では、できるだけ「側弯症と遺伝について」は考えないようにしているのではないでしょうか?  その大きな理由は、そのことに触れることでますますお母さんを精神的に追い込んでしまうから。それは同時にお子さん(特に娘さん)の心をも傷つけてしまうことになるから、ではないでしょうか?   なぜなら、お子さん(娘さん)が側弯症ということは、将来その娘さんの子どもも側弯症を発症する.......かもしれない...... という予想を思い出させてしまうから。

私達は「遺伝」ということを次のように単純な形で理解しています。

  祖父・祖母 → 父・母 → 自分・兄弟/姉妹 → 我が子

遺伝傾向のある病気では、これも単純に次のような図であることを信じてしまいます。

  :側弯症 → 自分(娘):側弯症 → 我が子(孫娘):側弯症

論旨はズレますが、この負の連鎖を思い浮かべるがゆえに、母親は、頭では理解しても  心の中が不安で一杯であるがゆえに、民間療法者の言いなりになってしまうわけです。

でも、この図式は正しいのでしょうか?  この図式が示しているのは、

 母:側弯症の遺伝子をもっている→娘に「遺伝した」→さらに孫娘にも遺伝 !?

もし、娘のところで「治せれば」、孫娘にまでは「遺伝しない」かもしれない!? と思い詰めたとしてもそれも不思議ではありません。 あるいは、「遺伝」などということは聞きたくもない、考えたくもない。というのが正直なところなのかもしれません。

いまさら「遺伝」と言われたところで、それを突き付けられたところで「現実」が変わるわけでもなく、それに比べたら「現実を変えてくれるかもしれない側弯整体」のほうがよほどわたしたちの気持ちを理解してくれている、と考えるのも自然な気持ちの流れです。

民間療法者、側弯整体もカイロプラクティックも、思春期特発性側弯症が遺伝のせいだ、とは絶対に言いません。なぜなら、それを言ってしまっては、「いま(自分-娘)」はともかくとして「将来:我が子(孫娘)」も側弯症になることが宿命づけられている、という知りたくない事実を突きつけてしまうから。彼らは、施術や体操やカイロでは「全ての側弯」は治らないことを経験から知っています。彼らビジネスの立場からすれば、「治らなかった」患者は「その子がしっかりと体操」をしなかったから、「ちゃんと整体に通ってこなかったから」という説明がもっとも妥当で、説明力のあるものになります。 遺伝のせいで治らなかったとしたら、施術したところで、体操したところで、「宿命」を変えることはできません。「宿命」などというものは存在せず、存在するのは、この体操をすれば「治る」という単純明確な論理だけです。

話しを遺伝に戻します。

   :側弯症 → 自分(娘):側弯症 → 我が子(孫娘):側弯症

この図式は医学的事実なのか?   もしこの流れが医学的事実であったとして、その内容はどういうものなのか?   例えば、もし次のような医学データがあるとしたら、お母さんの気持ちはまたずいぶんと変わるのではないでしょうか?  

             :側弯症(診断はされたが進行はせず) → 自分(娘):側弯症(装具療法で対応できた) 

もしもこのような医学データを見るならば、自分(娘さん)は、結婚し子どもを産むことを怖いと感じて躊躇するものでしょうか?   

そして、もっと大切なことは、思春期特発性側弯症における「遺伝」とはいったい何を示しているのか?   そのことを私たちは本当に理解しているのか?   ということです。

この点に関しては、私が現時点(2018年8月)までにグーグル検索で得られた文献でもっとも信頼性がおけると感じたのは 2013年スェーデンの「Family history and its association to curve size and treatment in 1,463 patients with idiopathic scoliosis」となります。

この内容については、別項を用いてご提供したいと思いますが、ここでは大枠のみを下記に記します。

・調査に協力してくれた1463人では、51%に親類縁者を含め身近にAIS病歴を有するひとがいた。 1463人のうち36%517人では、両親のいずれかがAIS病歴があった。両親を含めた51%746人のうち 17%127人がAISに対して治療した記録があった。

☞逆に言えば、AISと診断された746人のうち83%619人は経過観察だけで終えた。と読むこともできます。

☞この調査報告から見えることは、AISの発症には、近親者(両親)からの遺伝的影響とまったくそれとは関係なく発症する場合のふたとおりが、ほぼ半々である。ということ。

☞この調査報告でのさらに細かいデータは、別項あるいはブログStep by stepで示しますが、例えば、コブ角の大きさや、装具の比率、手術の比率は、近親者(両親のいずれか)がAISであった場合と、そうではなかった場合とでは「差」がない。ということが報告されています。つまり、もし父親or母親のどちらかが思春期特発性側弯症であった場合、お子さんがAISを発症する確率は決して低いものではありませんが、それがイコール手術になるほど悪化する側弯症とは「言えない」ということです。 


備考:AIS患者の両親がAISであつたかどうかを調査した医学報告としては、       1967年 De George FV et al「 Idiopathic scoliosis: Genetic and environmental aspects」もあります。この報告によれば、 女子患者の場合、いずれかの両親が側弯症であったのは 17% 、男子患者の場合、いずれかの両親が側弯症であったのは 29% というデータが報告されています。スェーデンの36%と比較すると数値が小さいわけですが、医学調査では、対象とする地域や患者数、選択時の状況などがそれぞれ異なることから、数値に幅がでることはある意味当然のことと言えます。重要なのは、これら数値の差が、大きくはズレていない、という点でしょう。


ここに示した図は、私(august03)が何冊かの本を読んで学んだことを単純化して「特発性側弯症」に置き換えてみたものです。特発性側弯症の原因はいまだ解明されていませんので、この図は決して正しいものではありません。と、同時に、「遺伝子」が病気に関与するというシステムとしては、理解しやすい図になっていると思います。

特発性側弯症がひとつの「遺伝子」......ここではそれを遺伝子Aと呼ぶことにします....が原因で、先祖代々伝わってくるものではありません。遺伝病の中には、医学事実として、明確に遺伝子が原因と解明されていて、先祖代々伝わっていく病気があります。ハンチントン病はそのひとつで、常染色体優性(顕性)遺伝の病気です。では、特発性側弯症もやはり常染色体優性(顕性)遺伝の病気でしょうか?   そうではありません。もしそうであったなら、私達は親類縁者の中にもっと明確に側弯症であった人を見つけることができるでしょう。

この図で示した用語、例えば「遺伝子A1のスイッチを入れる環境因子」「脊柱を正常に発育させる遺伝子A3にキズが発生」「修復酵素が機能しなかった」などはおそらく初めて耳にする方も大勢おられると思います。もちろん、これらも、参考資料を読み漁るなかで学んだ「遺伝子に関する基礎知識」的ものであって、特発性側弯症でこのような因子が発見されているわけではありません。しかし、ヒトの身体の中では、受精から成長していく時間経過のなかで、つねにこのような「様々なこと」が発生している。ということを知るだけでも、側弯症を遺伝という切り口で見つめる勇気に繋がるのではないでしょうか?  

お母さんが側弯症の遺伝子を持っていて娘の(私)(この子)に遺伝した(遺伝させた)のだ。と断定的・画一的に考えて、その責任に思い悩むことはやめましょう。ヒトがつねに細胞分裂によつて成長していくなかで、「遺伝子が分裂する過程で変異」が生じることは決してまれなことではありません。 ある特定の遺伝子が伝わったからではなく、ある遺伝子が自己複製を造るときに、数ある遺伝子の中の文字の「たった一文字」に変異が生じたことで、病気に繋がることもあります。もしかすると、特発性側弯症もそのような生理化学変化の中で生じた病態なのかもしれないのです。


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