これは社会学、あるいは心理学で

あるが、医学事実と誤解しそうな話について。

橘玲「言ってはいけない 残酷すぎる真実」。2017年新書大賞を受賞。帯には40万部突破とあります。下世話な話ですが、印税はウン千万円でしょうか。皆さんの中にも読まれた方も大勢おられると思います。読んでいて、著者に対して、確かに賛同できる見識を持っている方と感じた部分もたくさんあります。でも、ウン??  これって何を根拠にしているの?  あれ??  これって論理に飛躍がありすぎるのでは?  と思われた箇所もたくさんあります。

ここでは「遺伝子」を切り口とした視点で、同書の中の疑問点を幾つか示してみたいと思います。最大の目的は、「医学の衣(コロモ)を着た、医学とは異なる話が世界にはたくさん出回っている」ということを自分なりに整理してみたいと考えました。

同書の中では、例えば「黒人は白人より知能が劣っている」「アシュケナージ系ユダヤ人」は知能が高い」「アジア系の知能は白人より高いのは、ひとつの仮説として、セロトニントランスポーター遺伝子の分布がある。(中略)この分布は大きな地域差があり、日本人の場合、約7割がSS型で、(中略)不安感が強いひとは将来のことを心配して、いまから備えておこうとするだろう。逆に過度に楽天的だと、先のことを考えるよりいまを楽しもうとするかもしれない。こうした遺伝的傾向が東アジアの国々に共通するのなら、国際比較で試験の成績が高いことも説明できそうだ。不安感と引き換えに高い知能を手に入れた、というように。」

このような文章を読むと、あたかも私達の身体のDNAの中には「知能」を司る「遺伝子」が存在し、黒人にはその遺伝子が白人より「少ない」あるいは「欠如」している。と受け止めてしまいます。読み手である私達は、日本人-黄色人種-のことではなく、白人と黒人の比較ですから、ある意味、これは茶飲み友達との会話の中でのゴシップみたいなものとなってしまいます。しかも、後半では日本を含む東アジアの民族は、勤勉で知能が高くなる遺伝子を有している。と言われたら、ここで私達は自分のことを「褒められ・肯定」されているのですから、さらに茶飲み話として愉快で、面白いものへと繋がっていきます。

著者の才能なのか、あるいは出版社のこの編集者の才能かはわかりませんが、ストーリー展開つまり「物語」として非常によくできた構成といえます。

結論を「市民のための遺伝子問題入門」(2004年刊) から引用します。

P85. 遺伝子決定論的な動き  いま女性雑誌などが「遺伝子で決まるあなたの〇×」や「遺伝子占い」といった特集を組んだりしています。結婚相手との相性、趣味選択の適性といった、遺伝子とはあまり関係ないことが、「遺伝子」という言葉で語られようとしているのです。「遺伝子ブーム」といってもいいかもしれません。根本的な問題としては、生物個体がそれぞれの持つ形や性質(表現型:フェノタイプ)と、遺伝のもととなる要因(遺伝子型、遺伝素因:ジェノタイプ)の区別がなされていないことが多いということがあげられます。例えば「犯罪者遺伝子」という言い方をする人がいますが、これはまったくのマチガイです。この遺伝子をもっていたら犯罪者になる確率が高いというような意味での「犯罪者遺伝子」のようなものは存在しません。 女性雑誌ならまだしも、学術レベルでそのような言い方がされていることすらあります。

継続作業中




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